2023.09.20

地方から社会を変える、新たな人材育成を目指した静岡県浜松市の取り組みをレポート

地方から社会を変える、新たな人材育成を目指した静岡県浜松市の取り組みをレポート

2023年5月21日、静岡県浜松青年会議所が主催する「NEXT LOCAL LEADERS 浜松 -地方から社会を変える次世代リーダー発掘プロジェクト-」の最終選考会が、浜松市で行われた。このアワードは、地方における傑出した逸材とその活動に注目し、地域や行政を巻き込んで地域全体で新たなビジネスにチャレンジできる人財を支援する仕組みをつくっていくプロジェクト。全国同様、浜松市も若者の地元離れが顕著になり、市町村の過疎化が進むことに消滅の危機を感じている。今回で2回目を迎える「NEXT LOCAL LEADERS 浜松」が、課題解決への一歩になるかもしれない。浜松市の新しい取り組みとして注目したい。

「NEXT LOCAL LEADERS 浜松 -地方から社会を変える次世代リーダー発掘プロジェクト-」 は、浜松青年会議所が主催する地域活動の一つ。浜松が抱える転出超過の課題解決を目指し、『浜松に好循環を起こす若者』を発掘するプロジェクトを2022年に始動させた。昨年に引き続き、プロジェクトの実行委員長を務めた浜松青年会議所の小松大介氏が伝えたいアワードへの思いとは。

「昨年に引き続き、基本的に人にフォーカスすることは変わらないんですけど、2回目の今年は『どういう人材を掘り当てたら面白いのか』というところに着目しました。我々主催者としても、面白いことをやりたいなという気持ちが根本にあります。すごい人って多分どこでも『すごい』って言われて目立っているから、すぐに見つけられるし既に知られていることも多いと思うんですよ。でも、すごいんだけどそのすごさの方向を間違えてたり、誰も注目していないことをどんどん掘るような尖り方を間違えた人を探したい。今回はそんな思いがありました。我々は公益社団法人なので営利目的というよりは、非営利で地域の人のために何ができるかというのがベースにあると思っています。なので人材発掘はあくまでもスタートであって、そこから始まる好循環がこのプロジェクトの最大の目的です。参加者が発表したプランの中には、今はお金にならないけど投資先の案件として『これは面白い!』っていう内容もあって、審査中にも『僕だったらこれ買いますね』というコメントが出ていました。今はまだビジネスの目は小さいかもしれないけれど、見る人が見て買う人が買えばちゃんと新しい消費が生まれる可能性が、この取り組みにはあると思っています」(アワード実行委員長、小松大介さん)

可能性を秘めた次世代リーダー

今回、プロジェクトの審査員を務めたのは浜松市長・中野祐介をはじめ、前回グランプリ受賞者の中谷明史、NPO法人WELgee代表・渡部カンコロンゴ清花、ヤマハ発動機株式会社・青田元、浜松青年会議所理事長・内山瑛(すべて敬称略)の5名。市内に住む若者応募者の中から書類選考を通過した5人が、彼らの前でグランプリを目指し自身の取り組みをプレゼンテーションした。このアワードは、同じジャンルの人たちが競う通常のビジネスコンテストとは違い、それぞれの取り組みを同じものさしで測れないところに審査の難しさと面白さがあった。「森の秘密基地」を通じて里山の課題解決に目を向ける山田恵美莉さん。全盲のパートナーと二人三脚でダイバーシティーの確立を目指す五十嵐暁さん。環境問題に本気で挑戦する人材育成に取り組む高校教師の田邊俊樹さん。和太鼓を通じ地域の新たな伝統芸能を紡ぐ古橋彩さん。伝統に最先端技術を取り入れ、地域活性化を起こす国際派農家の加茂侑美さん。ここではグランプリに輝いた加茂侑美さんの思いに着目したい。

田んぼの風景を残していくのが私の使命

伝統に先端技術を取り入れて地域活性化を目指す国際農業士の加茂侑美さん。大学卒業後、航空自衛隊に入団しF15の整備士を取得しオーストラリア留学へ。その後実家の米農家を継ぐことになった。令和元年に静岡県青年農業士となり農業従事者の高齢化や農地転用など多くの課題を感じたという。

「農業って、一般的に高齢化が進んでいてなかなか担い手が見つからないんです。自分が地域を継承する農業者の一人として、私の境遇だからこそ貢献できることを考えました。具体的には、地域の耕作物の存在感を高めるために田んぼアート(絵柄は浜松市内の高校生がデザイン)の実施、市内の外国人も含めた農業体験イベント、れんげの田んぼ復活など、田んぼや畑がより身近になるようにイベントをしています。浜松は、YAMAHAさんやSUZUKIさんの企業に技術者として外国人の方も多く来ているので、そういう方たちへ向けてのアクティビティもやっていけたらいいと思っているんです。農業イベントはけっこう需要が高くて、多くの人が自然や農業に触れる機会を求めているなと思います。開催を重ねることで農地への関心を高められて、耕作地の管理を行き届かせることで地主さんが農地の貸出しに前向きになれるんだと思います。持続可能な農業には、地域との繋がりや協力が必要不可欠であると日々実感しています」

環境保全の補助金を利用したれんげ畑の復活と展望

加茂さんの取り組みのひとつに、れんげの田んぼの復活がある。春の田んぼにれんげの花をいっぱいに咲かせ、田植え時期にはそれらを緑肥として活用。れんげの花はハチミツの生産にも相性が良いことから、そこで生産された米をオリジナルブランド「みつばちまもる米」として販売している。コストのかかる「特別栽培米」(地域の慣行栽培に比べて対象農薬と化学肥料の窒素成分を5割以上削減して栽培された米)の生産。これを優先度高くやってみようと思ったきっかけとは。

「浜松市雄踏町は元々れんげの田んぼが広がる地域として有名だったらしいんです。知り合いの養蜂家の方も『れんげの田んぼがあったらいいのに』とよく言っていて、そんな時に浜松市役所の方から『環境保全の補助金でれんげの田んぼを作れないか』と相談があり、それをきっかけで面積を大きくすることにしました。あんまり知られたくないんですけど、実は田んぼにれんげを植えると肥料の代わりになるのでコスト削減にも良いんです。れんげが有機肥料になって化学肥料の一部を賄うことができる。そうすることでその田んぼで採れたお米に付加価値がついて、プライスアップして売れるようになるという仕組みです。この発想自体は浜松市にいただいたものですが、マーケティングなど経営面の様々な工夫によって、どんどん広めて大きなビジネスにしていけると思っています。農業をやっている人たちはアピールが苦手と思われがちですけど、私以外にもやる気ある農家さんはたくさんいて、いろんなプロジェクトの可能性を望んでいます」

課題解決において、求められる変化と継続することの意義

このアワードを1日だけで終わらせず、前後で彼らの課題解決のサポートの必要性を感じているという主催者。浜松市全体としては地域課題に向けて、一体地域で何が起きているのかというところに真剣に目を向けて動きが加速し始めている。「NEXT LOCAL LEADERS浜松」の取り組みがスパイラルアップしていくためのきっかけになるかもしれない。

「アワード後、彼らの取り組みを参考にしたいという人や企業はすでに現れています。浜松の課題解決に向けての動きはすでに始まっていると感じています。青年会議所としてもうまくマッチングできればと思っているんですが、受け入れる側にとっても受け入れられる側にとってもしっかりウィン・ウィンの関係になるよう調整していくのにはかなりのカロリーを要しますね。然るべき人たち同士が然るべきパートナーシップを結べて、事業開発までいくと一番いいんですけど、まだそこまでは進んでいない。浜松市では現在、周辺地域におけるインフラ維持が重要なポイントになっています。そこに大企業の資本が割と本気で入ってきているというのがここ数年の状況です。新しい事業開発や新規事業を作ろうというモチベーションはものすごく高くて、若い起業家やビジネスパーソンにとってチャンスの時期であることは違いないと思います。今年のアワードは審査員としてお呼びしていない企業の方も来場してくれたり、最近地域で話題になっているスポーツチームが来てくれたりもしました。前回はこちらから来場をお願いしたんですけど、今回はそこまでやらなくても、興味を持った人たちが集まってきたというのがありました。そういう意味でも、このアワードを3回4回と続けていくことで、認知度や地元の興味関心はどんどん広がっていくと思っています。出場者が持っているリソースとかビジョンと浜松市が抱える課題をどうマッチングしていくかという点において、このアワードは初めて続けていく意味を持たせられるんだと思います」(浜松青年会議所:伊達善隆氏)

地域の課題解決に、地元独自の知恵とアイデアで取り組む浜松市。こうした人々の熱い思いに寄り添った地方創生のあり方に、Channel47は引き続き注視していきたい。